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やや前回書き足りなかったことから。

「女性」の本質化(これは生物主義に繋がる)とともに少し気になったのは「アイルランド」の本質化という側面である。「アイルランド」ってどこですか、っていう本質的に政治的な問題があり、この点に関しては「おやすみベイビー」の監督マーゴ・ハーキンも、それを評価するカリングフォードも中途半端な感じがする。

まずもってこの映画は北アイルランドのデリーが舞台である。したがってプロテスタントも(また過激なロイヤリストも)たくさん住んでいるわけである。アイルランド/カトリックを強調するマーゴやカリングフォードもそのことを知らないわけはもちろんない。映画における聖母マリアの圧倒的な現前はストーリーががカトリック住民視線で描かれていることを示す。ここはマーゴに確認する必要がある点だが、デリーの、いや北アイルランドのプロテスタント住民がこの映画をどう受け取ったのか、また中絶の問題にどう彼らが反応しているのか、が分かりづらい。どうやらカリングフォードに拠れば1967年に成立した「イギリス中絶条例」(中絶を法的に認める条例)はイギリス連合国の一部であるはずの北アイルランドには適用されてこなかったようである。だとすればプロテスタントの女性もまたその身体(子宮)が管理されていることになるだろう。つまりイギリスの政府によって直接または間接にプロテスタントの女性も抑圧されていることになる。

つまり北アイルランドの女性が置かれている状況はもっと複雑だと考えられるのだ。

「分かりやすさ」を優先すれば複雑さは避けなければならない。それが「穏健さ」の陥穽なのかもしれない。

さて本題。
「シェルショック・ロック」(1979)
今回の映画祭の最大の目玉だった、と私は勝手に思っているが、大画面で観たこのドキュメンタリー映画の出来はお世辞抜きで素晴らしかった。北アイルランド紛争中の「若者」に焦点を当てている点では「おやすみベイビー」と同様である。「おやすみ」の少女、「シェルショック」の男の子。「おやすみ」の場合母性が中心テーマであり、「シェルショック」はエンターテイメントにおける「男らしさ」がテーマだとも言える(もちろんライブハウスには少女もやってくるけれども)。

あまり批評的ではないが、パンクの少年・少女たちが単純にカワイイのだ。アンダートーンズのフィエガル・シャーキーはあまりパンクのいかついイメージというよりはポップアイドルに近い。パワーポップといったほうが当たっているかもしれない。アメリカ西海岸のラモーンズの陽気さが不思議なことに紛争の影が濃い北アイルランドをパッと明るくする。一方の雄スティッフ・リトル・フィンガーズはクラッシュ寄りというか、政治的な臭いが強いのだが、そのエネルギーこそは「シェルショック」(砲弾による神経症)から若者を解放するロック音楽、だと思わせる。

ルーディー、プロテックス、イディオッツ、などあまり日本では馴染みのないパンクバンドもかなりかっこよかった。

それから忘れてはいけないのが北アイルランドパンクの仕掛け人テリー・フーリーである。ベルファーストにGood Vibrationsなるレコード屋を構え、自ら立ち上げたインディーズレーベルから数々の地元のパンクバンドを世に送り出した。とにかく映画の中のフーリーは本当に楽しそうで、一見アブナイ人である。ヒッピー風のいいおっさんなのだが、EMIなどが牛耳る巨大音楽産業にインディーズ・レーベルでもって対抗できることを体現している(それだけでも凄いことだ!)だけではなく、じつに素朴なのだ。音楽が好きで仕方ない、それがよく画面から伝わってくる。

とにかくグレートだった!

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