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『ハムレット』を読む (1)

オフィーリアはどちらかと言うとこの戯曲の中では端役なんだけど、それだけかわいそう感がけっこう強い。クローディアス王の廷臣筆頭で現在の総理大臣にあたる政務トップであったポローニアスの娘であり、終幕でハムレットと剣を交えるレアティーズとは兄妹の関係です。ハムレットとは恋仲であり、つつがなくハムレットが王位につけば妃として迎えられたんじゃないかなと思う。

でも、「つつがなく」とはどうしても行かないんですよね。悲劇ですから(笑)。

ポローニアスはクローディアス王の腹心であって、そのクローディアスは父であった先王ハムレットを毒殺して王位につき、よりによって先王の妻であるガートルードを妃にしちゃってるわけで、その息子や娘が悪い影響を受けないはずがない。でね、ネタバレになりますが、母親と話し合いをもっていたハムレットによって、盗み聞きをしていたオフィーリアの父親は殺されてしまう(第3幕4場)。どう考えてもハッピーなカップルに発展しようがない。兄であるレアティーズにも「身分の違い」を理由にハムレットとの関係に懐疑的であることを告げられたり、、、(第1幕3場)。

で、オフィーリアのことが特にかわいそうに思うのはハムレットの偽装された狂気とは違って、彼女の狂気が本物であることにあるように思う。ハムレットへの愛はまっすぐで疑いようがなく、復讐に燃えるハムレットに袖にされたり、ハムレットの狂気の原因を探るためにクローディアス王に利用されたりと完全に翻弄された挙句、最愛の男による父親の殺害が起こります。狂うね、確かに。

以下に紹介するのはオフィーリアがほぼ自殺に等しい溺死を遂げる直前にクローディアスの宮廷に登場する場面(第4幕5場)。リュートといういう楽器を吹きながら舞台に登場し、歌を歌いまくる。その歌詞がかなり際どくて、かえって彼女の傷の深さが浮き彫りになる、そんな印象です。

'Tomorrow is Saint Valentine's Day,
   All in the morning betime,
And I a maid at your window,
   To be your Valentine.'  (lines 47-50)

「明日は聖バレンタイン・デイ、
   早くから午前中ずーっと、
私、一人の乙女があなたの窓辺に隠れて、
   お嫁さんになれることを祈っています。」

シェークスピアが生きていた時代のバレンタイン・デイは現在の、また我々日本人のものとは異なって、この日に初めて顔を合わす男女が結ばれるという伝説があったそうである。「乙女」と訳したのは "maid" に「処女」という含意があるからだが、それが次のスタンザ(連)で生きてくる。

Then up he rose, and donned his clothes,
   And dupped the chamber door;
Let in the maid, that out a maid
   Never departed more.   (51-54)

それから彼は起き上がって、服を着て、
そして部屋の戸を開けたのです。
その乙女を部屋に入れると、
二度と乙女が部屋を出てくることはなかったのです。

二度と「乙女」が部屋から出てくることはなかったというのは、この歌の女主人公が実際には男の部屋で処女を失った、ことを意味します。この歌の流れにハムレットとオフィーリアの関係への揶揄を認めることは難しくないな、と。議論はいろいろあるようですが、肉体関係はあったと考えるのが自然ではないかな。この後の連からは男一般への呪詛が下品な宣誓の言葉(oath)を伴って続きます。

By Gis, and by Saint Charity,
   Alack, and fie for shame!
Young men will do't, if they come to't,
   By Cock, they are to blame.

Quoth she 'Before you tumbled me,
   You promised me to wed.'
'So would I ha' done, by yonder sun,
   An thou hadst not come to my bed.'   (57-64)

イエス君と慈善様にかけて、
あらまあ、なんてまあ恥知らず!
若い男たちはやっちゃうのよね、女が来るとなると、
ちんこ様にかけて、男たちこそ非難されるべきよ。

彼女はそのときの会話を引用する、「私を仰向けに倒したとき、
あなたは私に結婚の約束をしたわ。」
「結婚してただろうね、お天道様にかけて、
もしも君が僕のベッドにやって来たりしなかったらね。」

まあ言い方は下品だけどやり逃げされた、ということになる。性的な表現に満ちてます。ハムレットのオフィーリアに対する愛情が本物だったかどうかは、テクストから読み取るほかはないのだけれど、それを疑がう証拠も見当たらない。「尼寺へ行け」("To a nunnery, go.") という有名なハムレットのオフィーリアへの言葉にしても、父王の弟(ハムレットにとっては叔父)とあっさり再婚した母親に対する不信感から出た言葉であって、むしろ修道院("nunnery")に隔離されていて欲しいという風に読める(第3幕1場)。結婚という聖なる制度への絶望と言ってもいいんじゃないかな。

「聖なる」ていうのは大げさと言えばそうだが、王家の家族、婚姻関係というのは国民全体の規範であってね、近親相姦というのはやっぱりまずい。『ハムレット』の舞台設定はルネッサンス期のデンマークであり、現代日本における天皇家と比較するのは無理があるけど、当時の絶対王政における王と王家の国民一人一人への影響は物理的にも、心理的にも大であったことは想像できる。そういうわけでオフィーリアという一人の女性の立場に立てばやはり理不尽で、可哀想な状況だと思う。

どちらにしてもオフィーリアのような貴族の子女が人前で歌うような歌ではないし、まして王や王妃の前で歌うとなるとその精神状況はそうとう深刻と言わざるをえないね。

*底本として使ったのは Oxford 版で、四つ折り本第2刷(1604-5に出版)を最も信頼して編集していることを特徴としています。『ハムレット』も他の作品も一つじゃないんですよね。その辺はまた改めて。
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